ワールドサッカーダイジェスト 唐突の感もある処分厳格化の真相2

お目こぼしは一切なし──“ゼロ・トレランス”の徹底
最近は、スポーツ紙だけでなく、一般紙もこうした問題を大きく取り上げている。ただし、複雑な事態をわかりやすく説明するのは容易なことではない。わかりにくさの一番の原因は、案件の審査(事件の審査)から処分の決定に至るまで、プロセスがかなり複雑だから。そもそもFIGC、あるいはCONIによるスポーツ界内部における審査、処分が、最終的には行政裁判所や国務院といった一般の司法機関に持ち込まれるという構造自体がややこしい。しかも財政破綻八百長とでは、プロセスの細部に違いもある。
通常、カンペオナートへの登録を申請するクラブは、FIGCの内部に設置されている登録審査委員会(COVISOC)の審査を受ける。財政基準を満たしているか、チェックする機関がCOVISOCというわけだ。
COVISOCの審査を通らなかった場合(今回のメッシーナトリノのようなケース)は、一定の猶予期間中には“控訴”をすることも可能。その際、改めて書類を審査するのが登録再審査委員会(COAVISOC)で、COAVISOCの裁定がFIGCの最終決定となる。
FIGCに落とされたクラブは、イタリア・スポーツ界を統括するCONI、行政裁判所、さらには国務院へと、三段階に渡る控訴の機会を保障されている。どうやっても覆らないのは、国務院の下した裁定だ。
一方、八百長という“犯罪行為”が絡んでくる場合(今回のジェノアのようなケース)は、FIGCの懲罰委員会によって下された裁定が、COAVISOCの裁定に相当する。CONI、行政裁判所、そして国務院と、三段階の控訴が保障されている点は、登録審査の場合と同じである。
財政破綻八百長行為。どちらもイタリア・サッカー界のイメージを損なう重大な問題だ。今回、FIGCとCONIが足並みを揃えて厳しい裁定を下したのも、それゆえのことだろう。最近は「ゼロ・トレランス」(お目こぼしなし)という言葉が、イタリア国内で流行になっているほどだ。
だが実をいえば、、ゼロ・トレランスの徹底はイタリア・サッカー界を少なからぬ困難に陥れている。これまでに比べて、処分が厳しすぎるとの印象はたしかに拭えない。従来はこうした問題が発生しても、最終的になんらかの救済措置が取られていた。とくに大都市に本拠を構えるビッククラブが処罰の対象になった場合に、そうした傾向が顕著だった。
特例措置で何度となく命拾いをしているのが、ASローマ、ラツィオナポリといった有名どころのクラブである。こうした経緯があるだけに、FIGCやCONIの厳しい姿勢が際立ったものとなっているわけだ。とはいえ、現在の事態に兆候がまったくなかったわけではない。
FIGCの規律委員会が、ユベントスズラタン・イブラヒモビッチに3試合の出場停止処分を科したのは、昨シーズンの終盤だった。相手選手の挑発に乗り、報復行為を働いたイブラヒモビッチの振る舞いはもちろん褒められたものではなかったが、それまでの“判例”に照らせば処罰の厳しさは異例といえた。ユーベといえば、イタリア国民の5人にひとりがティフォージという超人気クラブ。しかも優勝争いがクライマックスを迎えていた時期である。以前なら、手心が加えられて当然のケースであった。