FUTBOL MUNDIAL #759●特集3:1962年ワールドカップのチリvsイタリア

チリ(Chile )のサンチアゴ(Santiago)で引退後の生活をゆっくり楽しんでいる、元チリ代表のスーパースター、セルヒオ・ナバーロ(sergio navarro)とレオネル・サンチェス(leonel sanchez)
ブエノスアイレスではアルゼンチン生まれの元イタリア代表ミッドフィルダー、ウンベルト・マスキオ(humberto maschio)がかつてプレーしていたラシンクラブで今もサッカーと関わっています


70歳代になったこの3人
穏やかな顔つきからは、彼らが50年程前に起きたワールドカップ史上最も物議を醸し出した試合の当事者だったとはとても想像出来ません



62年ワールドカップを初めて開催したチリ
2年前には大地震に見まわれ、国は壊滅的な状態でした
しかしチリは記録的なスピードでスタジアムを再建し、インフラを整備
予定通りの日程でワールドカップを開催したのです


逆境にも拘らず大きな期待を受けていたチリ代表チーム
まずスイス、西ドイツ、イタリアと同じグループに入りました
初戦は3対1でスイスを破り、好調なスタートをきります
そしてこの後のイタリア戦が、サンティアゴの戦い(Battle of Santiago)と呼ばれる悪名高き試合となりました




leonel sanchez
「当時のイタリア人記者の何人かがサンチアゴの夜の街を取材していて、偶々あまり評判の良くないクラブに入ってしまいました。翌日彼らはイタリアの新聞に、チリの女性は全員娼婦だと書きたてたのです。勿論その事を知ったチリ国民が怒ったのは当然の事でしょう」



humberto maschio
「チリ戦の前に監督に闘牛場だと思って頭からぶつかっていきなさい。決して恐れる事無く、自分がイタリアを代表しているという事を代表しているという事を忘れるなと言われました。これはプライドを植えつける事で私たちの自信を高めようという監督の思惑だったと思います。イタリアは国際経験もアウェーでの経験も豊富なチームでした。でもピッチに立った時の観客の敵対心は相当なものでしたねぇ。通常は穏やかなチリ人ですが、あの時は記者に書かれた記事の事でイタリア人を憎んでいました」



最初のファールは試合開始から30秒もたたないうちに起こります
開始9分には度重なるファールにイギリス人主審のケン・アストン(ASTON Kenneth)がイタリアのジョルジオ・フェッリーニ(Giorgio FERRINI)を退場処分にしますが、イタリアはこの判定を不服とします
フェリーニも退場を拒否
結局フェッリーニは審判達に引きずられる様にしてピッチから連れ出されます



humberto maschio
「良くあるファールだと思いました。退場処分になる様なファールではありません。だからフェリーニも抵抗したのです。彼は思慮分別のある人物です。トリノ出身の真のジェントルマンです。審判は完全にチリ贔屓でしたね」



sergio navarro
「試合のビデオを見れば全てのファールの切っ掛けはイタリアだいうことが一目瞭然です。理解出来ないのはイタリアにはシボリ(Omar SIVORI)の様な素晴らしい選手が居たにも関わらず、技術は何も無く乱暴なだけのフェッリーニの様な選手を起用した事です。イタリアは素晴らしいテクニックと才能を持った選手4,5名を使わずに強さと力だけでサッカーをする選手と入れ替えてきたのです。我々を圧倒して脅しで試合に勝とうという魂胆だったのでしょうが、でもそれは違っていました。チリは通常は美しいサッカーをしますが必要とあれば乱暴なサッカーだって出来るのです」




試合が再開され10分近くが経ちました
しかし、審判の努力も空しく、ファールの数は一向に減りません
そして前半終了間際、今度はチリのレオネル・サンチェスとイタリアのマリオ・ダビド(Mario David)が激しく衝突
この騒動を治める為にまた警察が出動します



leonel sanchez
「私は自分の体と腕を使って両足の間にあるボールを守っていました。すると突然ダビドが後ろから私を押したんです。私はそのままピッチに倒れました。でもボールはまだ私の間にありました。すると彼はボールを奪おうと私の足を蹴ったんです。それも2度もです。流石に私もキレて彼を殴っていましたね」



sergio navarro
「私は直に駆け寄っていきました。でもそれはレオネルが大丈夫かを確認する為では無く、ダビドに演技をやめて立つ様に言いに行く為だったのです。でも私は間違っていました。ダビドは演技していたのではなく、本当にレオネルにノックアウトされて気を失っていたのです。これを見た時レオネルは退場だとガッカリしましたね。正直いってあんな事をしてしまったレオネルは退場となって当然だと思いました。そこで私はメキシコ人の副審(BUERGO ELCUAZ Fernando)の所へ行きました。ワールドカップ開幕何ヶ月か前の1月から2月にかけてチリはメキシコで行われていた大会に出場していました。この時にこの副審が何回かチリの試合の審判を務めていました。そんな事から彼がチリに甘かったのかどうかは分かりませんが、主審が彼に何が起きたのかと確認しにいくと、そのメキシコ人副審はレオネルはダビドをただ押しただけで殴って等いないと伝えたのです。そんな訳でレオネルは退場にはなりませんでした」




この時の二人は厳重な注意を受けただけで済みました
しかし僅か数分後ダビドがサンチェスにジャンピングタックルをくらわせるという報復行為に出ます
ダビドは即刻退場
後半には元ボクサーを父に持つ、サンチェスがウンベルト・マスキオともつれ合った際、審判の目を盗んでマスキオの顔面に左フックを見舞うという信じられない行為に出ます



humberto maschio
「あの時後ろに何か気配を感じました。そして振り返った瞬間に鼻に一撃をくらったのです。審判は見ていませんでした。そうこうするうちにチリの選手達が集まってきて、アルゼンチン人が何でイタリアでプレーしているんだ等と暴言を浴びせたんです」



イタリアが9人で戦っていた後半にハイメ・ラミレス(Jaime RAMIREZ )のゴールでチリが先制します
そして試合終了2分前、ホルヘトロ(Jorge TORO) が駄目押しのゴール
チリは2対0で勝利を収めます



humberto maschio
「イタリアが負けたのは審判のせいです。開始僅か9分に右サイドのフェッリーニを退場にし、その後今度は右サイドバックのダビドも退場にしてイタリアの右サイドを壊滅状態にしてくれたんですから。イタリアは9人でよくあそこまで踏ん張れたと思いますよ」



優勝したブラジルには敗れましたがチリは準決勝まで勝ち進み、サンチェスは大会通算4ゴールで得点王タイになりました
ウンベルト・マスキオは残念な事に2度とイタリア代表として戦う事はなく、フィオレンティーナの契約完了後に生まれ故郷のアルゼンチンに戻りました
所でマリオ・ダビドとセルヒオ・ナバーロはこの数年後に再会しています



sergio navarro
「あの後何年かして62年ワールドカップに関する番組に出演する為にダビドがチリにやってきました。私も同じ番組に出ていました。ダビドはスペイン語が上手ではありませんでしたが、明るくて面白い人でした。あの試合から何年も経っていたので皆当時の怒りは忘れていましたね。だからダビドの事も心から歓迎しました。終わりの頃に冗談で遥々イタリアから君が呼ばれたのは、あの試合のあの場面の再現フィルムがあるからさ今度こそ君はコテンパンにやられるよと言いました。すると彼の顔からサァーと笑いが消えたのです。皆で笑いました」



ワールドカップでも1,2を争う悪名高い試合となったサンチアゴの戦い
でも50年近く経った今、この老紳士達の間にはなんの敵意も残されていません





Battle of Santiago
http://en.wikipedia.org/wiki/Battle_of_Santiago



Chile - Italy マッチレポート
http://www.fifa.com/worldcup/archive/edition=21/results/matches/match=1472/report.html




Leonel Sa'nchez
http://es.wikipedia.org/wiki/Leonel_S%C3%A1nchez



Sergio Navarro
http://es.wikipedia.org/wiki/Sergio_Navarro



Umberto MASCHIO
http://en.wikipedia.org/wiki/Humberto_Maschio




Omar Si'vori
http://en.wikipedia.org/wiki/Omar_S%C3%ADvori



Mario David
http://en.wikipedia.org/wiki/Mario_David



Jaime RAMIREZ
http://es.wikipedia.org/wiki/Jaime_Ram%C3%ADrez



Jorge TORO
http://es.wikipedia.org/wiki/Jorge_Toro




1962 FIFA World Cup
http://en.wikipedia.org/wiki/1962_FIFA_World_Cup





FUTBOL MUNDIAL #701●特集2:アルトゥーロ・ビダル
http://d.hatena.ne.jp/condeuma/20070621



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