CL 番外編#2 〜ユース・育成と強化 王立オランダサッカー協会

また今年ワールドユースを地元で開催し3位となったオランダ
KNVB(オランダサッカー協会
過去クライフを始めファンバステンライカールト等のスター選手を生み出し、世界のサッカーファンを魅了
現在もファンニステルローイロッベン等攻撃タレントの宝庫である



そんなオランダもユースの育成に力を入れ始めたのは15年程前からだという




レイニールセン
KNVB ユース育成担当
「私は王立オランダサッカー協会においてユース育成の担当者を務めており、その他、プロチームと協会とのコーディネーションも担当しています。詳細を言えば、私はオリンピック世代のチームのアシスタントコーチをしており、トレーニングにも関与しています。また若手と協会との連絡係、トレーナーの養成、19歳以下のユースプレーヤーの指導も行っています。オランダでは1954−55シーズンからプロリーグが設立され、昨年50周年を祝ったわけですが、若手がクラブから求められるようになり、ユース育成が重視されるようになったのはここ15年ほどのことです。それまで子供達は地元のクラブへ行くのが普通でしたが、ここ15年はプロクラブのユースに入る子供が増えています。プロクラブは多くのお金と情熱を、12歳から18歳の若手の育成に注ぎながら、彼らを代表メンバーに入れてさらにレベルアップさせようとしています」




国土は九州とほぼ同じ大きさ(41526k㎡)
人口も凡そ日本の10分の1(約1620万人)
でありながら世界に通用するスター選手を次々と生み出すオランダ


選手の育成にはどんな秘密があるのだろうか



レイニールセン
「オランダでは地理的にも、スカウトに理想的な環境が整っていると思います。子供は5歳から7歳でサッカーを始めますが、国が小さいので優秀な子供はすぐに注目されるようになります。KNVB(王立オランダサッカー協会)の各支部にはスカウト専門のスタッフもいますが、プロクラブも同様に6歳から9歳の子供を対象にスカウトを行っていますので、オランダではどこにいようと、すぐに協会かプロクラブのスカウトの目に留まる可能性が高いのです。KNVBには80人ほどが働いていますが、国中に協会の支部が6つあり、そこにも職員がいます。こちらの育成部には20人ほどのスタッフがおり、さまざまな年代のユースチームの育成に携わっています。その他にも各支部では技術専門スタッフとしてそれぞれ10人ほどが働いています。KNVB20人の常駐スタッフと各支部にいる10人ほどのスタッフは協力して、ユースチームや代表チームの試合の運営などを行っていますが、特に各支部では、11歳から15歳までのユースの試合運営のほか、トレーナーの養成にも携わっています。その他、仕事には地元の子供たちの中から男女を問わず、良い選手をスカウトするという仕事も含まれています」




では、スカウトで重視する基準とは何ですか?
スカウトの際、選手の何をみて獲得しようと思うのですか?




レイニールセン
「それはもちろん技術力です。実戦に生かせる技術を持っているかどうかだと思います。その他の要素は成熟してからでも身に付きますので、ユース世代のスカウトの基準はとにかく技術力です。精神力をいったことは後からついてくることなので、オランダではあまり重視されていません」





王立オランダサッカー協会にはユースプランと呼ばれる若年層育成計画がある
これは1970年代前半にトータルフットボールという新しい概念を生み出したミケルス氏の指導の下整備されたシステムだ
ミケルス氏はアヤックスが1970−71シーズンから3シーズン連続の欧州制覇を果たす礎を築き
88年にはオランダ代表を率いて欧州選手権を優勝する等、輝かしい功績の持ち主でもある





レイニールセン
オランダサッカー協会には国内に6つの支部があり、そこの常駐スタッフが子供たちのスカウトをしています。11歳から15歳までの子供たちでKNVBのチームを組織し、そのチームに対してユースの育成を行っています。オランダにある38のプロクラブでも同様に、11歳から15歳までの子供たちでユースを編成、育成してます。協会のユースチームとプロクラブのユースチームは練習試合を通じ、切磋琢磨してレベルアップを図っており、15歳以上になると代表チームのカテゴリーになりますが、彼らはプロクラブにも所属して試合やトレーニングを行っています」



つまり11歳から15歳までの選手で、協会がスカウトして組織したチームとプロクラブがスカウトしたチームが全国各地に点在し、サッカーのレベルを若い年代から高めているのだ




日本でも協会主導でフランスをモデルとしたJFAアカデミー福島が設立されている
モデルとなったのはフランスサッカー協会(FEDERATION FRANCAISE DE FOOTBALL)の若年層強化機関、通称クレーヌフォンテーヌ
国立フットボール研究所(INF)1972年創立
アンリ(アーセナル) ロテン(パリサンジェルマン) サア(マンチェスターU) アネルカフェネルバフチェ)らが卒業


1972年に創設され、テストに合格した少年達が共同生活を送りながら、サッカーのトレーニングに励んでいる




JFAアカデミー福島ではサッカーのエリート教育を施している




ではオランダはどの様な教育内容なのか


オランダではTICの原則を重要視している
Technique
Insaight
Communication


この3つをユース時代に徹底的に教え込むと、将来サッカー選手になった時必ず活きてくるのだと言う




レイニールセン
「TICのTはテクニックです。これは若い選手にとって多くの時間をかけても身につけるべきことです。Iは洞察力です。これはプレーの内容を知ることであり、幼い頃から洞察力を身に付けていくことが将来役立ちます。Cはコミュニケーション力でこれも年齢と共に見に付けていかなければならないことです。6、7歳の頃からこの能力を身に付けていれば、18歳位になった時に、チームプレーをスムーズに行うことができるのです。先ほどもお答えしましたが、ユース世代では特に技術力をどれだけ持っているかが鍵になります。他の国ではまったく別の側面を重視しているようですが、オランダでは技術力を重視しています。他の国ではユース世代から勝つこと、つまり試合結果に重点を置いています。オランダではサッカーの内容と質を重視しており、それは協会でもクラブでも同じです。これは教育の現場でも同じことで、指導者は勝つことよりもいかに良いプレーをするかに重点を置いているのです。他国では12歳位でもとにかく勝つことを重視しているので肉体的にスタミナのある選手を入れようとします。また他国は精神的な面も重視しているようですが、我々は身体が小さくてもスピードが無くても、テクニックのある子供に注目しています。これは彼らの成長を見守ることが、サッカー全体の発展に繋がるという考え方からです」




カテゴリー分け
オランダのシステム

18〜16 Aクラス
16〜14 Bクラス
14〜12 Cクラス
12〜10 Dクラス
10〜08 Eクラス
08〜06 Fクラス



オランダでは年齢別に細かくカテゴリーを分けている
ほぼ2歳区切りで若年層を指導しているのだ




レイニールセン
「まず10歳までは7人対7人のプレーをハーフコートで行い、サッカーをする事の喜びを感じてもらうようにします。10歳と11歳では11人対11人の試合を始めて体験させ、11歳から12歳からはピッチでのプレーを学ばせます。彼らにはどのような試合を組み立てていくのか、ラインの取り方や攻守の連携などを教えます。その後彼らは思春期に入り16歳くらいにかけて大きな成長期を迎えますが、その頃になると精神的にも難しく、不安定な時期にさしかかります。それは大人顔負けのプレーをしたかと思ったら、子供じみたミスを犯したりと、プレーにも顕著に表れます。16歳を過ぎると肉体的にも精神的にも落ち着いてきて本格的なプレーを披露するようになります。そして18歳くらいになると自分のサッカースタイルをいうものが確立してきますね。教会もクラブも同じ目標を掲げていると思いますが、幼い頃はとにかくサッカーの喜びを学んで貰うのが基本です。楽しんでサッカーをする事、サッカーから喜びを感じられるようにする事が大事です。これらを通じ、12歳くらいまでの間にサッカーが生活の一部となり、自然に学校生活と両立するようになってきます。生活の一部になる事で、ごく自然に子供たちはいかに攻撃、守備を行うかといった事に真剣に取り組む様になります。彼らはこの成長期に、試合を通じてフォーメーションやシステムへの理解を深め、心身共に成熟していくわけです。16歳から18歳の選手のプレーを見ると、それ以前とはスタイルがはるかに確立されていきている事が良くわかります。16歳からは、ただ楽しければ良い時期が過ぎ、さらに深くサッカーを知りたいという欲求が強まるのです。その精神は彼らがプロになっても引き継がれていきます」




サッカーを生活の一部として楽しみながら学んでいく
また選手としてプロを目指していく
オランダが考えるサッカーの原点がここにある





ユース育成において、KNVBが今後特に重視して行きたいと思っている事は何ですか?



レイニールセン
「今後、数ヶ月間は様々なクラブと話し合いの場を持つ事になりますが、今までは上手い選手ばかりに注目しすぎているので、その後ろに隠れている選手を発掘する必要があるでしょう。スカウトが見に行った時に、たまたま実力を発揮出来なかったという子供は勿論いるでしょうし、才能があると思ってスカウトしても、育成している間に期待とかけ離れていってしまう子供もいます。子供を理解するには時間が必要ですから、彼らにはもっと多くのチャンスを与える事が大事だと思います」




より良いユース育成の為に何が必要だと思いますか?



レイニールセン
「一般的な事になりますが、施設や組織の整備、そしてトレーナーが個々の選手に沿った指導をする事だと思います。子供達を集め、整ったピッチでトレーニングを行えば、良いという物では無く、子供には個別指導が必要です。そしてトレーナーは愛を持って接し、子供を信頼し、直ぐにに結果を求めない事です。その意味ではオランダは良い方向に向かっていると思います。協会はトレーナーを養成する際にその事を助長しており、それはクラブでも同じ事です。これは子供の資質を見極める為にも重要な事です。直ぐに結果を求めないという意味でもね。最終的な目標はプロリーグに良い選手を送り込む事ですが、我々が携わっているのは、その通過点に過ぎないという事を認識すべきです」





FUTBOL MUNDIAL #584●特集1:リヌス・ミケレス
http://d.hatena.ne.jp/condeuma/20050417