FUTBOL MUNDIAL #775●特集1：アルジェリア代表の前身、FLN

1982年ＦＩＦＡワールドカップに初出場したアルジェリア
初戦はスペインのヒホン（Gijón）で強豪旧西ドイツと対戦しました
伝統国として北アフリカからの新参者を甘くみていたのか、西ドイツは１対２とまさかの敗戦

アルジェリアは世界中が注目する舞台で存在感をアピールしました
グループリーグ突破は逃しましたが西ドイツ戦の勝利は勲章
アシスタントコーチ、ラシド・メクルフィが現役だった２４年前には代表として戦う事すら夢物語でした

１９５８年フランスからの独立戦争を戦っていたアルジェリア
中心となっていたのはＦＬＮ（ Front de Libération Nationale）アルジェリア民族解放戦線です

戦争では多くの命が失われ両国に傷痕を残しました

当時多くのアルジェリア系の選手がフランスリーグでプレーしており、サンテティエンヌ（AS Saint-Étienne）のフォワードだったメクルフィは代表入りもしていました

ＦＬＮがチームを作った理由をこう話します

rachid mekhloufi

「ＦＬＮがチームを作ったのはサッカーをする為だけではないんです。１９５４年から５８年の間にアルジェリアで何が起きていたか、フランスの人達に知ってもらうという別の目的もありました。アルジェリアでの戦争は伏せられていて、フランス国内ではあまり伝えられていませんでしたからね。そこで深刻な状況をアピールしようとＦＬＮがこのチームを作ったのです」

綿密に立てられた計画の下、ＦＬＮから祖国の為に尽くす様求められたアルジェリア系の選手達

チームに参加するということはこれまで所属してきたクラブ、そしてフランスを捨てる事を意味します

mohamed maouche

「ＦＬＮは順番にフランスにいる選手全員とコンタクトをとりました。フランスを離れて一旦チュニジアへ行き、そこで皆で落ち合う段取りをつけたんです。その間にＦＬＮのチームは形になり始めてね。こうしてスタートした代表はおかげさまで継続していったんです」

当時サンテティエンヌではリーグを制覇し、スウェーデンワールドカップに向けたフランス代表に選ばれていたメフルフィ

人生を変える選択を迫られます

rachid mekhloufi

「結局全てを放棄する事にしたんです。フランス代表を辞退してこれから得られたであろう富や名声も投げ打って、ＦＬＮのチームに参加する決意をしました。ヨーロッパやアラブ諸国でアルジェリア代表として試合がしたいと思ったからです」

スウェーデン大会ではジュスト・フォンテーヌ（Just Fontaine）の活躍もありベスト４入りしたフランス

メクルフィ達が居れば準決勝でブラジルを破り優勝したかもしれません

ただワールドカップの栄光を逃してもアルジェリアの為に尽くしたい、そう思う程祖国の状況は深刻でした

選手達は迫害を恐れながらフランスを逃れようとしましたが、選手の流出を避けたいフランス政府によって多くが国境を越える前に捕らえられました

メクルフィとモハメド・スカン（Mohamed Soukhane）はフランス陸軍の予備兵だった為、軍への不参加で訴えられモハメド・マウシュは刑務所へ

mohamed maouche

「メクルフィとスカンには禁固１０年の判決が下されました。１０年の刑を宣告されたんですよ。あのままフランスの思う様に進んでいたら、二人共１０年もの間刑務所に居る破目になっていた所です。でも私の場合は事が上手く運んでね。ランスの人が刑務所から出られる様協力してくれました。おかげで４５日間入れられただけで済んだんです。それでも大変でしたけどね」

選手が帰ってくるとアルジェリアを支持する国との対戦が企画されました

ＦＬＮと試合をすれば、国際舞台での制裁が待っているとのフランスの牽制にも関わらず、試合に応じるチームはあとを絶ちませんでした

rachid mekhloufi
「６７試合か６８試合くらい戦って負けたのはたったの１１度ですからね。私達は素晴らしいチームだったんです。アラブ諸国を回って沢山の相手と対戦しました。ヨルダン、バグダット、パレスチナ、チュニジア、モロッコ、リビア他にも色々な所へ行ったんですよ。何処の国でも私たちを暖かく迎えてくれましたしね」

旧ユーゴスラビア、ハンガリー、旧チェコスロバキアにも勝つ等立派な成績を残したＦＬＮ
予想を上回る評価を受けると共に政治的な意味でも成果をあげました

rachid mekhloufi
「おかげでアルジェリアも独立に向けて大きく前進出来ました。ＦＬＮの指導者の一人ファルファト・アバス（Ferhat Abbas）からも私たち選手がチュニジアの首都チュニスに集まってから、アルジェリアの革命が１０年進んだと言われましたからね」

何より重要なのはチームが掲げたメッセージ
戦争への関心を高めアルジェリアを独立国として認めてもらう事でした

mohamed maouche
「何処で試合をする時も国歌が流されアルジェリアの国旗が掲げられました。それが無ければ私たちは戦わなかったはずです。国旗が無かったり国歌が斉唱されなかったりしたらピッチに上がる事さえも考えなかったと思います。一口に革命を支持するといってもその方法は様々です。武器を持って戦うだけが革命ではありません。何を持って戦うべきかは人によって違いますし、私達の場合それがサッカーでした。祖国への想いをサッカーに託したんです。アルジェリアの国旗を目にして国歌を耳にして涙を流したものですよ。そして実際に独立が叶った時は、全てのアルジェリア国民が喜びを噛み締めました」

１９６２年ついに独立を果たしたアルジェリア
それを支えたＦＬＮのチームは戦争終結後アルジェリア代表へと姿を変えました
メクルフィをと含め何人かの選手は再びフランスのクラブに加盟しますが、今度はアルジェリア人としての加入です
彼らは祖国の為に新たな歴史の礎を築いていったのです

Front de Libération Nationale
http://en.wikipedia.org/wiki/National_Liberation_Front_(Algeria)

Algeria national football team
http://en.wikipedia.org/wiki/Algeria_national_football_team

Rachid Mekloufi
http://en.wikipedia.org/wiki/Rachid_Mekhloufi

Mohamed Maouche
http://de.wikipedia.org/wiki/Mohamed_Maouche

Mohamed Soukhane
http://fr.wikipedia.org/wiki/Mohamed_Soukhane

Just Fontaine
http://en.wikipedia.org/wiki/Just_Fontaine

AS Saint-Étienne
http://en.wikipedia.org/wiki/AS_Saint-%C3%89tienne

World Football Elo Ratings: Algeria
http://www.eloratings.net/Algeria.htm

Ferhat Abbas
http://en.wikipedia.org/wiki/Ferhat_Abbas

ヒホン
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%92%E3%83%9B%E3%83%B3

トランスワールドスポーツ#771特集サッカー:Burkina Faso
http://d.hatena.ne.jp/condeuma/20080402