トランスワールドスポーツ #965●特集1：チェコの競馬事情
●特集1：チェコの競馬事情
チェコの首都プラハから２時間の場所に競馬とゆかりのあるパルドゥビセ（PARDUBICE)という街があります
ここはヴェルカ・パルドゥビツカ（Velka Pardubicka）と呼ばれる障害レースで有名な所です
今年はその第１１５回が開催されます
このクロスカントリー障害レースを楽しみにしているファンは多いのですが、騎手と馬にとっては最も困難なレースの一つです
josef vana
「騎手にとってこの大会で優勝するのは、オリンピックで金メダルを取る様なものだと言えばどれだけ重要な大会かがおわかりになるでしょう。ここチェコではこのレースは１２０年近くの歴史を持つ重要な大会です。ヴェルカ・パルドゥビツカの全ての優勝者はその後英雄として扱われる様になるのです」
この大会で５度優勝しているヨゼフ・バナはこのレースの事は誰よりも良く知っています
このレースは他の国際的なレースとは少し違い、クロスカントリー障害レースと呼ばれています
距離は７km足らずで有名なイングランドのグランドナショナルよりも短いのですが、障害物はより難しくなっています
ヴェルカ・パルドゥビツカの名物はこのタクシスジャンプと呼ばれるフェンス
レースが始まって１分も経たたいうちに、この幅２３ｍ、高さ２ｍのフェンスが現れます
フェンスの着地側には深い溝がある為、安全に着地する為には距離６ｍ程のジャンプが必要となります
最近では安全の為に溝の深さが浅くなりましたが、この障害は難関中の難関です
この後にも沢山の障害が控えています
例えばこの巨大なアイリッシュバンク、エネルギーを消耗させるあぜ道の様なコース
そしてダブルフェンス、ここは往復しなくてはなりません
mirek petran
「ここで成功出来るのは障害を前もって良く知っている騎手です。このレースは常に変化しているので、簡単に進めるコースではありません。クロスカントリーですから、コースの変化が激しいのです。例えば急な曲がりの直ぐ後に障害があったりするのです」
この競馬場のミレク・ペトラン会長はこのレースが国際的な障害レースのファン、オーナー、トレーナーの要求を満たせる様注意を払っています
しかしそれはこのレース以外に世界的な競馬レースが開催されていない国では極めて難しい事です
第一回のヴェルカ・パルドゥビツカは地元のハンティングクラブの提案で１８７４年に行われました
彼らは獲物を追って荒らした土地をレースで再生しようと考えたのです
数十年でチェコのスポーツでも有数の大会に発展しますが、この国の歴史にも影響を受けました
１９６８年のソビエト侵攻により、チェコスロバキアに独裁的な共産政権が生まれた後もレースは続けられましたが、競馬場自体は荒れ果てた状態となりました
共産政権の崩壊後初めて行われたレースは１９９０年、しかも丁度１００回目のヴェルカ・パルドゥビツカでした
この後競馬場はチェコにある他のインフラと同様、美しく改修されたのです
mirek petran
「共産時代には私達外国と接触する機会は殆どありませんでしたから、このレースが発展しなかった事もご理解いただけるでしょう。レースエリアのメンテナンスは殆ど行われず、コースには水さえ撒かれませんでした。しかしここ１０年以上はコース全体に水を撒いていますし、設備も改善されています」
もう一つの問題はレースが馬にとって危険過ぎるという批判に対処する事でした
特にタクシスジャンプは最も批判を集めていました
主催者はタクシスの溝だけでは無く、他の障害物も改造し、出場者の基準も厳しくしました
獣医の検査を見守っている５３歳のバナ。彼は騎手であると同時に優秀なトレーナーでもあります
彼はこの大会で優勝を重ねて来ましたが、その代償として体中のあちこちを骨折しているといいます
josef vana
「私は２９歳から馬に乗り始めました。でも一般にこの年齢はこのレースに出るのを辞める年です。私ももうすぐ辞めるつもりですが、あと１、２年は待たなくてはなりません。私の一番下の息子にヴェルカ・パルドゥビツカを教えるまでね。息子に全てを教えたら、息子の幸運を祈りながら引退しますよ」
暖かな天気にも恵まれたレース当日には、国中のファンだけでなく、ドイツの競馬ファン、イギリス、アイルランドからも多くの観客が訪れました
観客数が最大だったのは１９４６年で６万人を記録しています
観客が出馬表片手に地元の肉やビールを楽しむ中、馬と騎手はメインイベントに向けて準備を進めています
その一人チェコの女性騎手はこれまで３度出場しているもののゴールの経験がありません
martina ruzickova
「私の馬はとても良い馬なので障害で失敗しなければ７位か８位にはなれると思います。私にとって今年が最後の出場になりますが、それはヴェルカ・パルドゥビツカがとても難しいレースで馬にも危険があるからです。今年は観客の皆さんに私達が培ってきたものをお見せできると思いますよ」
ヨゼフ・バナとマルティナ・ルージチコバを含む１６人がスタート位置につきます
全長６．９km、障害物の数３１の第１１５回ヴェルカ・パルドゥビツカの熱戦の火蓋が遂に切って落とされました
二つめのフェンスでショッキングな事件が起きました
過去２年優勝して本命だったレジスターナ（Registana）の騎手（Crowley James）が最初に落馬したのです
しかし人々の注目はその直ぐ後のタクシスに集まります
今年の馬達はタクシスも楽々とこなしますが、アイリッシュバンクでその勢いを削がれます
騎手達は着々とコースを進んでいきますが、１８個目の障害ビッグウォータージャンプで２頭の馬がつかまり、その一頭がルージチコバのチャイランド（CHAILAND）でした
怪我は無かったものの、またしても彼女は完走出来ませんでした
最後の直線はマスクル（Maskul）とディセントフェロー（DECENT FELLOW）の一騎打ちとなります
１０分近くのレースを制したのは最後の最後で僅かにリードしたドイツ人のディルク・フーアマン（D.Fuhrmann）が騎乗するマスクルでした
ヨセフ・バナは４位に入りました
マスクルとフーアマンはほんの僅かの差でライバル達を下しましたが、彼らが克服した最も困難な敵は歴史あるコース自体だったと言えるでしょう
Velka Pardubicka
http://www.vpcp.cz/
ヴェルカ・パルドゥビツカの歴代制覇馬、馬齢、騎手、タイム等
http://www.vpcp.cz/vitez.php
第１１５回出走メンバー
Startovní listina
115. Velká pardubická České pojišťovny Steeplechase cross-country kategorie, pro 7leté a starší koně, délka dráhy 6 900m start 9.10. v 15 hodin 35 minut
Jméno, věk Jezdec Váha
1 MASKUL, 11 ž. Fuhrmann Dirk 67,0
2 LUZCADOU, 12 Mercer Keith 67,0
3 KEDON, 10 ž. Myška Jaroslav 67,0
4 NOSTALGIA, 8 ž. Kameníček Jiří 65,0
5 ASCOT, 8 ž. Matysík Zdeněk 67
6 DECENT FELLOW, 10 ž. Bartoš 2 Josef 67,0
7 REGISTANA, 9 Crowley James 65,0
8 BELOVODSK, 13 Plzák Jiří 67,0
9 LANERET, 9 Tůma 2 Pavel 67,0
10 IRAKLION, 10 ž. Havelka Radek 67,0
11 ODYSEUSZ, 7 ž. Stromský Marek 67,0
12 JACK DE RAOU LAND, 8 ž. Luka 2 Václav 67,0
13 JOINT AUTHORITY, 10 am. Horner Lucy 67,0
14 HASTAVEN, 10 ž. Hurt Tomáš 67,0
15 CHAILAND, 8 Růžičková Martina 67,0
16 TAKAGI, 10 Maguire Jason 67,0
17 RED DANCER, 9 ž. Andrés Dušan 67,0
18 RETRIEVER, 8 ž. Váňa 2 Josef 67,0Škrtnuti:
BALAMUT(POL), BARGIEL(POL), BRAMBUSCH(GER), CIESZYMIR(POL), CIPÍS, ELIŠKA PŘEMYSLOVNA, GAME LANCASTRIAN(GB), GLOGLOGLO, GOOD STEP(IRE), HARRY IN A HURRY(GB), ICARE DU RENOM(FR), JUNIUSZ(POL), KADOR DU FOUGERAY(FR), KYRTON, NARRATOR(POL), OLYMPIC GOLD, PAXFORD JACK(GB), RHEINDROSS(IRE), SADOMIS(POL), SHADY LAD(IRE), SPOT THE DIFFERENCE(IRE), SZERYF(POL), TANEČNICE, THREE MILL(IRE), VAGANT, VERSIT
レース写真
http://www.vpcp.cz/gallery.php
