FUTBOL MUNDIAL #659●特集2:キプロスサッカー事情

●特集2:キプロスサッカー事情
政治的対立の架け橋にサッカーを使おうというキプロスのサッカー事情をレポート。

1974年7月トルコがキプロス(Cyprus)北部に侵攻
ギリシャキプロスとトルコ系キプロスの対立が激化しました
両者の間の溝は決定的となり、かつては一つだった国が突然民族ごと分断されたのです
16万人のギリシャキプロス人が南へ追われ、5万人のトルコ系キプロス人は北へ
分裂国家の為首都ニコシア(Nicosia)も二つに分けられています
現在世界で首都が分断されているのはニコシアだけ
グリーンライン(green line)と呼ばれる緩衝地帯は国連軍が管理
南北二つのコミュニティを隔てています


分断によって人々の生活にも様々な影響が
公式の政府として国際的に認められているのはギリシャ系が統治する南側
北側の北キプロストルコ共和国を承認しているのはトルコだけです
スポーツの世界にも暗い影を落としています
ギリシャ系、トルコ系に関係無く同じチームでプレーしていたキプロス人も政治的背景から分裂しました
元選手でレフェリーだったエズカン・エズカハンです



ozcan ozcanhan
「1955年の9月か10月、トルコ系のチェティン・ カヤ(Chetin Kaya)はギリシャ系のペゾポリコス(Pezoporikos Larnaca)と対戦する事になっていました。私はチェティン・ カヤの一員でギリシャ正教会の物だったラシビ?スタジアムへ遠征で行ったんです。でも私達はスタジアムに入れて貰えませんでした。スタジアムの責任者が髭面の強そうなボディガードと一緒に出てきたので話を聞いたんです。そしたらギリシャ正教会から命令されているからトルコ人には今後スタジアムを使わせる事は出来ないと言われました」




この為トルコ系キプロス人は1955年7月、キプロストルコサッカー協会(cyprus turkish football association)を設立
現在会長を務めるのはニヤジー・オクタン
トルコ系キプロスのチームは対戦相手に不自由していると訴えます



niyazi okutan
ギリシャキプロスから分離している為にトルコ系キプロスのチームは、UEFAやFIFAの主催する大会に出られません。私達に言わせればそんなのおかしいと思いますよ。ここの若い選手達も、皆と同じ様な権利を与えられるべきです。海外のチームとの試合を認めて欲しいですね」



元々グリーンライン上にホームがあったチェティン・ カヤ
戦争が南北双方にどんな影響を及ぼしたか窺えます
ただギリシャキプロスはヨーロッパの大会に参加
キプロス代表として国際舞台にも臨んでいます
一方トルコ系キプロスは内輪でしか戦えません




niyazi okutan
北キプロスに居る選手達の為に現在はトルコ系キプロスのリーグを主催しています。でもそれ以外に選手達のモチベーションを保つ方法があまりありません。選手として成長していくには、ある種の励みが不可欠です。その為にはギリシャ系とトルコ系が一緒の協会を作って合同チームで国際舞台に挑戦する事が理想的だと思うんですがねぇ」




会長の発言が絵空事には思えない程両者の関係は良くなっています
UEFAカップ予選2回戦では、ギリシャキプロスのアポエル(APOEL FC)とトルコのトラブゾンスポル(Trabzonspor)の対戦が実現
将来を見据えた試金石となるのでしょうか
アポエルは85年にUEFAカップベジクタシュ戦でトルコ遠征を拒否
この為トルコ勢との対戦は初めてです
万全の警備体制が敷かれましたが、試合が出来る事自体大きな進歩
アポエルのキーパー、ミハリス・モーフィスです



michalis morfis
「他の分野では一緒に何かする機会はありませんからねぇ。スポーツを通して顔を合わせるのはお互いにとって良いチャンスだと思うんです。コミュニケーションの問題を乗り越えたり、過去を水に流したりする為にもね」




ニコシアのGSPナショナルスタジアム(Neo Stadio Gymnastikou Syllogou Pagkypria)は2万人のサポーターの熱気に包まれました
南北間の越境が可能になったのは2003年4月と最近の事
多くのトルコ系キプロス人は今回生まれて初めて南へきました



marinos satsias
「試合が良いムードで行われればそれを切っ掛けに二つのコミュニティにより良いメッセージが伝わっていくと思うんです。そして何時の日か、キプロス問題に対する答えが見つかるかもしれません」




ゲームは期待通りの盛り上がり
開始2分、リカルド・フェルナンデス(Ricardo Fernandez)が鮮やかなボレー
ホームのアポエルが先手を取ります
さらに後半にも追加点のチャンスを迎えたアポエル
しかしクリスオストーマス・ミハエル(Chrysostomous Michail)がPKを失敗
命拾いしたトラブゾンスポル
終了間際イブラヒム・ヤッタラ(Ibrahima Yattara)のフリーキックで追いつきます
トラブル無くゲームが出来たのも幸いです




ozcan ozcanhan
「この問題が出来るだけ早く政治的な解決に向かうと良いですね。それが無理ならせめてサッカーや、他のスポーツの分野で二つのコミュニティを交流させて欲しい。仲良くプレーすれば良いじゃないですか」




キプロスの人達は皆そう思っているはずです






Cyprus Turkish Football Federation
http://en.wikipedia.org/wiki/Cyprus_Turkish_Football_Federation



APOEL FC
http://www.apoelfc.com.cy/
http://en.wikipedia.org/wiki/APOEL



Trabzonspor
http://www.trabzonspor.org.tr/
http://en.wikipedia.org/wiki/Trabzonspor




グリーンライン
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%B3%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%B3




Ibrahim Yattara
http://en.wikipedia.org/wiki/Ibrahim_Yattara




Neo GSP Stadium
http://en.wikipedia.org/wiki/Neo_GSP_Stadium




Pezoporikos Larnaca FC
http://en.wikipedia.org/wiki/Pezoporikos_Larnaca_FC




Yattara denies APOEL victory
http://www.uefa.com/competitions/UEFACup/news/Kind=1/newsId=442977.html



Trabzonspor make it safe
http://www.uefa.com/competitions/UEFACup/news/Kind=1/newsId=448698.html




Cyprus - Championships 1931-1999
http://agrino.org/anorthosis/1995/protathlimata.html







Jスポーツ
http://www.jsports.co.jp/program/info/14129.html







以下を2006年9月24日に追記

川本暢の「欧州サッカー徒然的視線」
引き裂かれたキプロス、キャプテン不在のフランス(前編)
http://sportsnavi.yahoo.co.jp/soccer/euro/column/200209/0911kawa_01.html



第105回 2004年欧州選手権予選開幕(1)−アフロディーテの故郷、キプロス
http://www.jpmoins.com/archives/no105.html




FUTBOL MUNDIAL #659●特集2:キプロスサッカー事情
http://d.hatena.ne.jp/condeuma/20060830